小津安二郎監督の『お茶漬けの味』に、戦後間もない東京に流行し始めたパチンコ店が出てくる。立ったまま遊ぶ手打ち式。一度やってみましょうよと誘われて主人公が入った店で玉が詰まり、おい出ないぞと盤面を叩くと島の後ろから顔を出すのが店主の笠智衆だった。
店主は主人公の戦友で再会を喜び一緒に酒を飲む。はじめてやったパチンコをなかなか面白いじゃないか、景気はどうかと主人公が問うと、店主の笠智衆が「まあまあです、しかし早晩いかんようになるとわしはそう思うとるんです・・・こんなもんが流行るのはいい傾向じゃない」と答えた。
パチンコの魅力について「パチンコもちょいと病みつきになるね・・・簡単に自分一人きりになれる。世の中の一切の煩わしさから離れて、パチンとやる・・・純粋な孤独だよ。そこに魅力があるんだな。幸福な孤独感だ」と主人公は話す。
パチンコはまだまだ流行るという主人公に対し、こんなもんが流行っとるうちは世の中良くならんです、という店主。小津安二郎を敬愛しパチンコ好きを公言するヴィム・ヴェンダース監督はパチンコ店は映画館や教会に近い社会的存在だ、と言う。
流行に戸惑うパチンコ店主。その後大衆娯楽は爆走した。世の中良くなったのかどうか。
※本コラムは「日刊遊技情報」より抜粋